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4・18シンポジウム この職場から 日本の安心安全は守れるのか ディスカッション @
新自由主義は産業と職場にどう浸透したのか

尾高)  山家先生、ありがとうございました。
 それではいまパネリストの4名からご報告を頂きましたので、ここからは討論に入りたいと思います。伺っていますと、幾通りにも掘り下げていかないと、なかなか結論が出ないというほど大切な問題を多く含んでいると思うのですが、時間の問題もありますので、可能な限りで深めていくということにします。
 まず一つ目ですが、山家先生からお話がありましたように、どうやら新自由主義という考え方、それによる「構造改革」政策がもたらしたしわ寄せが、それぞれの産業の根深いところに居座っていて、多くの問題の根っこになっているように思えます。そして、それは表面的な制度面の変質にとどまらず、広くこの国の産業の内実に、そして働く者の頭の中にも浸透している気がしてなりません。だから、歯止めなくとんでもないことが起こり始めているのではないか、という問題意識です。
 そこでパネリストの方々から、山家先生の発言を受けてどうお感じになったか、コメントを頂きたいというふうに思います。まず航空労組連の山口議長からお願いできますか。

■アメリカ追随する日本−このままいったらどうなるのか
山口)  どうしても私たちは自分たちの職場のことだけを考えてしまいます。労働組合をやってはじめて他の産業や企業のことを知ることができます。例えば、全損保のこの場にきて他産業の新しい状況を知る。また、外国に行って、話を聞いて、アメリカでも国際競争力を高めるために規制緩和をやるのだと、日本と同じことを言っているということを知る。そこで、根本的なことはなんなのかと、初めて気がつくのであって、なかなか単組だけでは分からないことが、「構造改革」の問題としてわかったような気がします。
 例えば、「世界中の労働者よ、団結しよう」と言われますが、アメリカの例をあげますと格差社会がどんどん広がって、航空会社の中でも、ユナイテッド航空では新人の正規社員の年間の賃金が2万ドル、(1ドル)110円で約220万円です。その最高経営責任者ですが、それがこう指で「4、4」と出しますと、大体44億円なのです。正規の社員でも、2,000倍も経営者との差がついている。これはアメリカの議会で証言された内容なのですが、こういう社会が、このままいったらどうなるのかというような、驚くような状況が一方であるわけです。アメリカに追随している日本の状況を見て、先生の言われたようなことを、一つ一つ順を追っていきますと、なるほどそのとおりということを感じました。

尾高)  生協労連の桑田委員長いかがでしょうか。

■競争を野放しにする新自由主義が重要なものを破壊している
桑田)  生協は生活協同組合の略称ですが、行っている事業ということでいえば、卸小売業、商業、流通業ということになります。

◆安全神話なくなった生協
 ここはどこよりも規制緩和が早かったし、激しかったと思っています。一つは先ほど8割がパートだと申しましたが、この状態は80年代くらいからもう横行していたのです。いまは、パートよりももっと下、委託・派遣が急増しています。もう一つは、1990年から、大きな店舗に対する規制廃止が行われました。それから地方の郊外に大きなショッピングセンターがどんどんできてしまって、中心市街地の商店街やお店がどんどんなくなって地域を壊してしまうということが起きた。今では24時間365日大型店がこうこうとあかりをつけて商売をするということになっています。それから、中国で商品をつくるなどというのは価格競争−みなさんのところと同じです−がどんどん進みました。安いものをアジアで仕入れて国内で販売する。低価格競争・低コスト競争が野放しにされてきた。このようななかで、共存共栄とか、地域に住み良いまちづくりが、どんどんなくなってきているというのが現状だと思います。
 競争を野放しにする新自由主義が国民・地域、重要なものを破壊するということを非常に実感しているところです。そういうなか、生活協同組合のあり方というのも歪んできたということができると思います。

◆「安い」ということをしっかり議論しなければ
 さて、食の安全を本当に生協は守りきれるのか。生協の安全神話というものがありましたけれども、今の時点でもう神話はなくなりました。「生協は、これこれこういうことをしていますから安全です」ということをきちんと言う。それを組合員に聞いていただける。そういうことが問われる事態になっているわけです。
 それから、食の安全の問題も、「中国産だけがダメなのか」、「アメリカ産はもっとやばいよ」、「国内産なら大丈夫なの?」、「国内産もやばいんじゃないの」という議論があります。しっかりとみなければならない社会になってきています。
 その背景には、自公政権によるアメリカ言いなり、財界本位の新自由主義というものが流れているんだということを申し上げておきたいと思いますし、本格的にこの国のあり方、産業のあり方、構造を変えていかないと展望が見出せないと思います。

尾高)  吉田委員長はどうですか。

■労働者保護の規制緩和が、産業の競争を底なしにする
吉田)  山家先生のお話をうかがって、新自由主義がどのように広がっているのかということを考えました。損保でいえば商品や料率、業務領域など、業務上の規制緩和が確かにどんどんすすめられていく。航空もそうですし、いろんな業種でその部分の規制緩和がどんどんすすめられています。一方で大事なところとして押さえておかなければならないのは、山家先生がおっしゃられていたように、労働者にしわ寄せをする時代をつくってきているということが、「構造改革」の最大のポイントになっているということだと思うのです。いくら料率を下げると言っても、労働者の賃金を下げてはいけないんだという社会であれば、料率競争には歯止めがかかっていく訳ですけれども、そこが底なしでガタガタッと変えられていく。労働者を保護していた仕組みも全部緩和をされて、なくされていってしまう。そのなかで産業の競争も歯止めなくすすんでいってしまうということが共通して起こってきているということがよくわかりました。
 だから、やっぱり安心・安全を守るという観点で、労働者の権利がどう守られているのかということが極めて大事な論点になります。そうなると今度は、その「守られた労働者」が安心・安全を守るためにどうすべきなのか、ということも次の論点になると思いますが。安心、安全の問題を考えるとき、トータルに新自由主義がもたらしている問題を掴み直すことが大事だと思います。

尾高)  お話をうかがっておりますと、航空、生協、損保というそれぞれ重要な社会的役割を果たすべき産業が、新自由主義・規制緩和のもとでその役割と無縁になっていく姿が浮き彫りにされてきたと思うのですが、とは言え、いくら規制緩和論だと言っても、社会的役割が不要とまでは言い切れないとも思うのです。ここのところは、どのような言い分で規制緩和がすすめられ、そしてそのどこに問題があるのか。すでに現実からつかめるようにもなっていると思いますが、どのように考えるべきなのか。山家先生からもう一度、掘り下げていただくとありがたいのですが、いかがでしょうか。

■「規制緩和でよくなる」はまったく説明になっていない
山家)  規制緩和論者といいますか「構造改革」論者は非常に弁が巧みでしてね、いろんな問題が起こると、「それはまだ緩和が十分でないからだ」「自由化が十分でないからだ」「もっと規制緩和をやれば良くなる」という話を必ずします。ですが、本当はそうじゃない。これは資本主義の歴史で明らかなのです。18世紀から19世紀にかけていろんな問題が起き、これでは社会がもたないから、修正資本主義といいますか、若干そういう方向にいったのですが、今、それがゆり戻して「良くなる」と。本当にそうなのかというと、「構造改革」論者の言っていることは全く説明になっていないと思います。
 やっぱり市場というのはしばしば行き過ぎる。いいとなると、ドドっといい面もありますが、悪くなるととんでもないことになります。ですからある程度歯止めをかけないといけないのです。特に労働の面です。一人ひとりの労働者は弱い。それに対して企業の力は強い。しかも働く人は生活がかかっているし、企業は代わりの人を雇えばよろしいということで、その間で交渉をしても、ちゃんとした条件ができるわけがないので、政府の力できちんと歯止めをかけなきゃいけない。要するに働く人の権利、人権を守れる歯止めをかけなければいけないのです。
 営業の規制もそうです。24時間営業の店がどんどん増えていますが、例えばヨーロッパに行くと日曜日はほとんど店は休み、平日でも6時頃には小売店は店を閉める。規制があるわけですね。なぜそのような規制があるかというと、そういう規制をせずに野放しにすると、野放しに人が働かされて深夜労働させられたりする。そのためには営業を禁止した方がよろしいというわけです。例えば飛行場や駅の小さな店は開いていますけれども、大半の店は休む。休まざるを得ない状況をつくりだしています。アメリカは自由の国というのですが、州や都市によっては大規模店舗が進出できない規制をもうけているところがたくさんあります。安全に関する規制も、もとよりそうです。
 このように、どうしても自由競争に任せるとまずくなる、歯止めがきかなくなるという面ではきちんと規制をかけていく方向に政治を変えていかなければいけないと思います。そういう面では、アメリカとかイギリス、特にイギリスではどんどん野放しの方向に行っていますが、それでもまだ大陸ヨーロッパの国はそれなりに歯止めを持っていて、自由勝手なことはできない状況がつくりだされています。その辺を学びながら、日本も、手本はアメリカ、イギリスではなくて、大陸ヨーロッパの国、ドイツやフランス、北ヨーロッパの国などに視点を変えて、違う社会があることをみていかなければならないと思っています。

山口)  ちょっと関連でよろしいですか。

尾高)  お願いします。

■安全の問題が注目され、航空法の緩和を押し戻した成果がある
山口)  9年前に航空会社は自社整備が原則だったのです。それを規制緩和で撤廃したために、自社で整備ができない会社ができたのですね。国が指導してつくったスカイマーク、エアドゥでそれが始まった。日本航空や全日空に整備を依頼してやっていたわけです。安売り競争の先頭に立っていたわけですけれども、その間に、スターフライヤーズですとかスカイネットアジアですとか、いろんな航空会社ができました。けれども、みなさん、パイロットは外国からきた機長、もしくは定年を終わった人なのです。このような整備もできない状態でいろんなトラブルが起きました。 また、全日空やJALでもいろんなトラブルが起きました。
 どういうことが起きたかといいますと、航空法の第1条というものがあり、「事業の秩序を確立して、もって航空の発達をはかる」と、「秩序」を第一にあげていたのですが、これを2000年に改定して「事業の適切かつ合理的な運営を確保して」として、「合理的」になれということを入れたわけです。ところが、一連の問題が明るみになるなかで、2006年に、私たちも運動し、国会でもとりくみ、様々な社会的な批判もあり、安全の問題が注目されるようになって、また航空法を変えました。「合理的な運営を確保」というのは残ったのですが、「輸送の安全を確保する」ということを第1章に入れたのです。押し戻したということです。
 安全は、乗員だけに限らず、乗客の方々、また一般市民にも影響するわけです。飛行機が墜落すればいろいろ被害がでますから。そういう点では社会的な航空への安全の高まりのなかで、航空法もまた変わってきたという成果があります。




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