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全損保結成60周年 記念シンポジウム 2009年11月12日 於)星陵会館
全損保のよさを残した時代
誇りを持ってもらいたい
吉田  加藤先生、お二方のお話を聞かれてどのようにお感じですか。

加藤
弁護士
加藤健  10年と言うと本当に長いのですが、私の記憶によると、最初のころにエースの社内公募という椅子取りゲームのリストラがありました。それに対して、約300人の組合員の方が全員で仮処分申請をしました。私の事務所でも20数名の弁護士が全員代理人になるという意思統一もして、とにかくやるぞという力勝負をすることで結局撤回させました。全損保らしいたたかい方だなと思ったのは、全員に、自分が当事者になって裁判の主体になるかどうかを決意してもらって、議論してもらった。だから300人分の委任状が集まった時点でほぼ勝負はついていたというのがエースのたたかいでした。
 外資は乱暴なことをやるなと思っていたのですが、保険「自由化」を受けて再編合併が始まり、経営破たんを口実として雇用自体を破壊するという事件がありました。そして、合併が行われるなかで全損保の支部に対する分裂攻撃が次々と行われました。とにかく合併の発表があるたびに、我々としては「ああっまただ」という感じで、事務所のなかでも「今度はまたあそこか」という話をしていました。トータルでいうと、再編によってもたらされたものは労働条件の劣化だと思います。どちらが裏か表かはあると思いますが、やっぱり労働組合の規制力が弱くなれば、当然労働条件も悪くなる。そのために攻撃が先にくると。その両面が一緒に来たのが、たたかっている日動外勤のたたかいだなと思います。
 よく考えてみると、確かにほとんど私が絡んでいます。第一のたたかいは、途中で体調を崩して休んでいたのですが、復帰したら、突然、大成火災が破たんだとニュースが流れてとんでもないことになりそうだと、また全損保の戦線に復活したということです。印象深かったのはTISのたたかいです。永山という少し遠いところに計算センターがあったものですから、会議が終わると駅前の飲み屋で、ついみなさんと飲んで帰ったものです。会議では、これはTISだけじゃなくて全損保のほとんどの事件がそうですが、集まった組合員が必ず発言します。しかも同じことを言うわけでない。それぞれ要求も、家庭の状況、おかれている立場が多少違うのですが、全員がそれぞれしゃべって、最後にみんなで方針を決めると言う。僕はここが全損保の一番いいところだなと思います。みんながしゃべって、みんなが認めあって、みんなで決めてやるっていう、これが全損保のいいところだし、持ちこたえてきた要因かなと思っています。
 日常的な支部からの相談も数多く寄せられます。再編合併がすすむなかで、今までの労働条件を経営者の方も変えたい、それもだいたいは悪い方に変えたいということで、細かい作業も含めて、さまざまな相談で、10年間お付き合いしました。それを通じて、損保業界の「自由化」はなんだったのかと、今、思うわけです。損害保険というのは安全、安心、それから安定がないともたない業界です。そこに競争を持ち込んで各会社が競争をするとすれば、どこで差を出すかというと、一時は保険料で差を出すと言われましたが、そんなことをやったらよほど美味しいところだけをうまくとるか、よほどギャンブル的にやるかしないと成り立たない。結局やっぱり結果としてみると料率競争は成り立たなくて、コスト削減で利益を上げるか、あるいはいろんな細かい特約をつけて売っている方も買っている方も訳の分からない商品をつくって、そこで差別化をはかるというような方向にしかいかない。やっぱり、この10年でいうと経営者の方が本来の損保業界のあるべき姿を完全に見失ったと思います。
 それに対して、むしろ全損保の方が損保業界の本来のあり方を常に提起してきた10年だったのではないかなと思っています。全損保に対していろいろ攻撃もありました。率直にいって、うちの事務所も60年代のいわゆる分裂問題から始まってずっとおつきあいをしていますが、今だから言いますけれど、本当に全損保は大丈夫かというくらい心配した、それだけ激しい攻撃だったと思うのですね。でも、さっきいったように全損保が一人ひとりの組合員の要求を大事にしてきちっとそういう議論をしながら奮闘してきたということ。それから何より損保業界のなかでの単一組合としてどんなことがあっても、1人になってもやっぱり守るという組織原則を確立してきたということが今の組織を残してきた大きな要因じゃないかと思います。
 一緒に弁護士として付き合っているものから見ると、少数になっても組織が残って、多数で残っている支部もまだたくさんあって、全損保が損保業界のなかでまともな労働組合としてきちっと残っていること自体、大変なことであるという思いを強くしています。このことは本当にみなさん誇りにもっていただきたいと思うし、日本の労働組合運動がこういうところをもっともっともっていけば、もっと発展する素地があると思っています。そういう意味では、私はこの10年は本当に激しい時代だったと思いますが、決算をしてみると、本当によく頑張って全損保の良さを残してきた時代だと思います。業界全体としてみると、そろそろ暴走していく経営者の発想は改める時期に来ていると思うのですが、なかなかそうなっていません。全損保が単なる労働者の権利だけじゃなくて、業界全体の健全なあり方を今までも提起し、損保業界をきちんとまわしていくという役割はますます大きくなるのではないかと思っています。
 10年間、局面ごとにお付き合いさせていただいて本当にいい経験をさせてもらいました。みなさんの率直な討論にも付き合い、時には聞いている方がつらくなるような経験もしましたが、そういうなかで、労働者はこういうことを思いながらやっている、労働組合とはこういうものを束ねながらやっている、ということをあらためて弁護士としてよく理解することができました。最近は新しい組合が多く、弁護士が仕切るわけではありませんが、どうすすめていくのか、ということを頭に入れながらやるという意味では、皆さんとの経験は非常に参考になっています。そういう意味で全損保とお付き合いさせていただいたことは本当に私にとって幸せなことだと思っています。これからもたたかいは続くと思いますが、この到達点に自信を持って、これからも運動をすすめていっていただきたいと思います。





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